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    「あゝ、さうだつた。なあんだ!」

    今泉は調子づいた。

    「ふうん、潰れるだらうな」

    たとい健康の人間でも、往復の長い時間をかんがえると、一泊や二泊で引揚げて来ては、わざわざ行った甲斐かいがないということにもなるから、少くも四、五日や一週間は滞在するのが普通であった。

    房一は傷を調べにかゝつた。後頭部にもあつた。身体にへばりついたシャツをはぎとると、背部に最もひどい傷があつた、それは紛まがふところのない刃物による刺傷だつた。新しい血がはぎとられたシャツの下から、瞬またゝく間にふき出し、滴したゝり落ちた。

    徳次はきまり悪げに、しかし、又あのきよろりとした眼つきにかへりながら云つた。

    日々は平凡に単調に過ぎて行つた。

    「いや、危険はまづない見込だ。だが、何と云つたらいゝか――」

    「どういふことです、わたしにはさつぱり――」

    「うん」

    「さうですか」

    宿は大きい家で、ほかにも五、六組の逗留客があった。根津は身体に痛み所があるので下座敷の一間を借りていた。着いて四日目の晩である。入梅に近いこの頃の空は曇り勝がちで、きょうも宵から小雨が降っていた。夜も四つ(午後十時)に近くなって、根津もそろそろ寝床に這入ろうかと思っていると、何か奥の方がさわがしいので、伊助に様子を見せに遣ると、やがて彼は帰って来て、こんなことを報告した。

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